仕事で車を使う人向け:台風時の運転可否の判断基準

営業や配送、送迎など、仕事で日常的に車を運転する人にとって、台風が近づいたときの「動く・動かない」は、個人の我慢や度胸の問題ではありません。会社としてのルール、使える情報、連絡の仕組みをどう整えるかという問題でもあります。この記事では、確認できた法令(労働契約法、貨物自動車運送事業輸送安全規則)と、気象庁・内閣府の公開資料をもとに、運転可否を判断する材料と、社内基準の作り方の考え方を整理しました(2026年9月25日確認)。

📋 この記事の要点

✔ 労働契約法第5条は、使用者は、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をするものと定めている

✔ 貨物自動車運送事業者は、異常気象等で輸送の安全に支障のおそれがあるとき、乗務員等への適切な指示など必要な措置を講じなければならない(輸送安全規則第11条)

✔ 内閣府(防災担当)の資料によると、令和元年東日本台風で屋外で亡くなった50名のうち13名が、仕事中または通勤・帰宅中の被災だった

✔ 気象庁の風の表では、平均風速20〜30m/sで「通常の速度で運転するのが困難」、30m/s以上で「走行中のトラックが横転する」との記載がある

✔ 台風時の運転可否を数値1つで決める全国一律の基準は、今回確認した範囲では見つからなかった。情報と社内基準を組み合わせて判断する

1. 法令で決まっていること・決まっていないこと

台風時に「何m/sなら運転してよい」といった数値を定めた全国共通の法令基準は、今回の調査範囲では確認できませんでした。一方で、使用者の一般的な責務や、貨物運送事業者に関する規定は確認できました。

📊 運転可否に関係する法令(e-Gov法令検索で確認)

根拠 内容 対象・留意点
労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮) 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする 業種を問わない一般的な規定。台風時の運転可否の具体的な基準を定めたものではない
貨物自動車運送事業輸送安全規則 第11条(異常気象時等における措置) 貨物自動車運送事業者は、異常気象その他の理由により輸送の安全の確保に支障を生ずるおそれがあるときは、乗務員等に対する適切な指示その他輸送の安全を確保するために必要な措置を講じなければならない 貨物自動車運送事業者が対象
同規則 第20条第1項第15号 運行管理者の業務として、第11条に規定する場合にあっては、同条の規定による措置を講ずることが定められている 運行管理者を置く貨物運送事業者
同規則 第7条(点呼等) 運行の業務に従事しようとする運転者に対して点呼を行い、疾病・疲労・睡眠不足の有無や点検の実施などを確認し、運行の安全を確保するために必要な指示を与える 貨物運送事業者。点呼の方法や記録の保存などが定められている

📌 確認できなかった点

旅客運送事業や、一般の営業車・社用車について、台風時の運行可否を個別に定めた法令は、今回の調査範囲では確認していません。事業の形態によって適用される規則が異なるため、必要な場合は、所管の運輸支局や専門家へ確認してください。

2. 判断に使える公的情報

運転可否を決めるときは、「感覚」ではなく、公的機関が示している情報を材料にすると、社内で共通認識を持ちやすくなります。気象庁の表と警戒レベルは、次のように整理されています。

📊 運転可否の判断に使える公的情報

情報 公表されている内容 使い方の例(当サイトの整理)
気象庁 警戒レベルに対応した警報・注意報 レベル2 大雨注意報:避難行動を確認。レベル3 大雨警報:避難に時間を要する人は早めに避難、避難の準備等。レベル4 大雨危険警報:危険な場所から全員避難。レベル5 大雨特別警報:命の危険、直ちに安全確保。暴風警報・暴風特別警報は、警戒レベルには相当しない別枠の情報 運行判断の入口として、発表状況を確認する。警報・注意報の基準は市町村ごとに異なる
気象庁 風の強さ(平均風速) 15〜20m/s:高速運転中は横風に流される感覚が大きくなる。20〜30m/s:通常の速度で運転するのが困難、飛来物で負傷するおそれ。30m/s以上:走行中のトラックが横転する 平均風速は10分間の平均で、瞬間風速は3秒間の平均。瞬間風速は平均風速の1.5倍程度になることが多い(気象庁の注記)
気象庁 雨の強さ(1時間雨量) 20〜30mm:ワイパーを速くしても見づらい。30〜50mm:高速走行時にハイドロプレーニング現象。50〜80mm:水しぶきで視界が悪くなり、車の運転は危険 雨量は、現在の観測値と予測を合わせて確認する
高速道路会社の通行止め情報 通行止めの可能性がある区間を、公式Web・X・LINE等で事前に知らせる(NEXCO東日本)。規制基準を超えれば通行規制を実施 走行予定のルートが通行止めになる可能性を確認する
内閣府(防災担当)の資料 豪雨襲来時の対応例として、従業員等については、テレワーク、計画的な休業、時差出勤、安全な場所への避難などが整理されている(令和2年3月) 運転を伴わない働き方への切り替えも、選択肢に入れる

⚠️ 通勤・帰宅時の被災にも注意

内閣府(防災担当)の資料は、令和元年東日本台風で屋外で亡くなった50名のうち、13名が仕事中、通勤・帰宅中の被災だったと記しています。運転中だけでなく、移動そのものを見直す視点も、社内の基準づくりに欠かせません。

3. 社内基準の作り方(判断の枠組みの一例)

以下は、上記の公的情報を材料に、社内基準をつくるときの枠組みの一例です。公的な基準ではなく、数値の当てはめは、事業内容・走行エリア・車両の種類に合わせて、社内で決めてください。

📊 運行可否の判断の枠組み(例)

段階(例) きっかけとなる情報の例 運用の例
通常運行(備える) 台風情報で、数日先に警報級の可能性が示されている(気象庁の早期注意情報は、警報級の現象が5日先までに予想されるときに発表) 予定の前倒し・延期を検討する。車両の点検、駐車場所の確認、連絡体制の確認を進める
注意 大雨注意報・強風注意報などの発表 走行ルートと時間帯を見直す。運行中の連絡の頻度を決める
制限 暴風警報・レベル3 大雨警報の発表、高速道路の通行止め可能性の発表 新規の外出や長距離運行の見合わせを検討する。外出中の人は、帰社・待機の判断をする
原則、運行しない レベル4 大雨危険警報、レベル5の特別警報、暴風特別警報の発表 移動を中止し、安全な場所で待機する。すでに走行中の場合は、安全な場所に停車し、会社に連絡する

🧭 運行判断の流れ(例)

1

数日前:情報を集め、社内に共有する

気象庁の台風情報、早期注意情報、高速道路会社の発表を確認し、関係者に共有します。

2

前日〜当日の朝:運行計画を見直す

警報・注意報の見通しに応じて、外出・配送の予定を変更する、リモートに切り替える、などを判断します。

3

出発前:点呼・確認を行う

運転者の体調、車両の状態、走行ルートの通行止め状況を確認し、必要な指示を出します。

4

運行中:情報を更新し、中止の判断を早めにする

悪化の兆しがあれば、予定より早く運行を切り上げる判断を、現場と管理者の双方が取れるようにします。

5

帰社後:報告を受け、次の判断に反映する

通行止めや冠水の位置、危険を感じた場所などの情報を集めて共有します。

💡 「動かない」判断を評価する

納期や売上の圧力が、悪天候でも無理に移動する原因になります。内閣府の資料が挙げる「計画的な休業」「時差出勤」などの選択肢を、基準にあらかじめ盛り込み、動かない判断をしても不利益にならないことを、社内で明確にしておくと、現場の判断がしやすくなります。

4. 車両・駐車・連絡体制の整え方

📊 車両・駐車・連絡体制のポイント

項目 ポイント 根拠・補足
車両の点検 台風接近前に、タイヤの状態やワイパーブレードの状態などを確認する JAFは、大雨に備えて、タイヤの状態、ワイパーブレードの動きやゴムの点検、視界を確保するための窓の清掃などを、日ごろから行うよう案内している。貨物運送事業では、点呼で点検の実施等を確認する(輸送安全規則第7条)
駐車場所 冠水しやすい低い場所や、地下・アンダーパス付近を避け、車を集約する場所を決めておく JAFは、アンダーパスや高架下など周囲より低い場所は冠水しやすいと案内している。国土交通省は、水深が床面を超えると電気装置の故障やエンジン停止のおそれがあるとしている
連絡体制 外出中の運転者と、管理者との連絡方法(電話・チャット・点呼)を決めておく 運転中に手で持って通話することは、道路交通法第71条第5号の5で禁止されている。連絡は、安全な場所に停車してから
浸水した社用車 自分でエンジンをかけず、販売店や整備工場に相談する。EV・HVは高電圧バッテリーにむやみに触らない 国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
退避場所の確保 運行中に危険を感じたら、待機できる場所を決めておく JAFは、大雨に遭遇した高速道路では、SA/PAに停車して待つことを挙げている

5. 会社と運転者のチェックリスト、参考リンク

📝 会社(管理者)のチェックリスト

☑️ 台風時の運行可否の基準(段階と、きっかけとなる情報)を社内で決めている

☑️ 気象庁・高速道路会社などの、確認する情報源を決めている

☑️ 「動かない」判断をしても不利益にならないことを、社内に周知している

☑️ 外出中の運転者と連絡する方法を決めている

☑️ 車両の点検と、駐車場所の集約の方法を決めている

☑️ 浸水した車両の扱い(エンジンをかけない・販売店等に相談)を周知している

📝 運転者のチェックリスト

☑️ 出発前に、警報・注意報と通行止めの情報を確認した

☑️ 運転を控えるべきか、上司・管理者に相談した

☑️ 走行中に危険を感じたら、安全な場所に停車し、会社に連絡すると決めている

☑️ アンダーパス・冠水路には入らないと決めている

6. よくある質問

Q. 警報が出たら、車を使ってはいけませんか?

A. 今回確認した範囲では、警報の発表のみを理由に、一律に運転を禁じる全国共通の数値基準は見つかりませんでした。ただし、警報は重大な災害のおそれを警戒する情報です。使用者には労働契約法第5条の配慮が求められ、貨物自動車運送事業者は輸送安全規則第11条の措置が必要です。社内で、警報の種類ごとの運用を決めておくことが大切です。

Q. 従業員が危険を感じたとき、運転を断ることはできますか?

A. 個別のケースの判断は、勤務先の就業規則や契約内容、状況によって異なります。一般的には、労働契約法第5条が、使用者に安全への配慮を求めています。具体的な対応は、勤務先の担当部署や、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

Q. 通勤の運転も、会社が気にするべきですか?

A. 内閣府(防災担当)の資料では、令和元年東日本台風で屋外で亡くなった50名のうち13名が、仕事中または通勤・帰宅中の被災でした。テレワーク、時差出勤、計画的な休業など、移動そのものを減らす選択肢を、あらかじめ基準に入れておく企業の取組が、資料で整理されています。

Q. 社用車が浸水したら、どうすればよいですか?

A. 国土交通省は、水に浸った車両は、外観上問題がなさそうでも、感電事故や電気系統のショート等による車両火災のおそれがあるとしています。自分でエンジンをかけず、販売店や最寄りの整備工場に相談してください。EV・HVは、高電圧のバッテリーを搭載しているため、むやみに触らないでください。

まとめ

仕事での台風時の運転可否は、個人任せにせず、会社として基準と情報の使い方を決めておくことが大切です。労働契約法第5条は使用者に安全への配慮を求め、貨物運送事業者には輸送安全規則第11条の措置が求められています。気象庁の警戒レベルや風の強さの表、高速道路会社の通行止め情報などを材料に、段階ごとの運用を決め、「動かない」判断が評価される体制をつくりましょう。

※本記事は、法令や公的機関の公開情報を整理した一般的な情報提供です。労務・法律に関する個別の判断は、社会保険労務士・弁護士・所管の行政機関など専門家へご相談ください。法令や制度は改正されることがあるため、最新の内容は、e-Gov法令検索や各公式サイトでご確認ください(2026年10月時点)。

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