自動車盗難は6万4,223件(2003年)から6,386件(2025年)へ|鍵のICチップ(イモビライザー)の効果と限界

「自動車盗難は2003年の6万4000件超から、2023年は5000件台まで減った」。YouTubeショートで紹介したこの数字は、警察庁の統計表で確認できました。ただ、その後の動きと、鍵のICチップ(イモビライザー)でできること・できないことは、動画だけでは伝えきれませんでした。

この記事は、警察庁の統計・警察白書、国土交通省の資料、EU指令の原文、トヨタの取扱説明書、JAF Mate Onlineで確認できた内容だけをもとに、動画を補足する解説です。盗難対策グッズの選び方や保険の扱いは別の記事に任せ、ここでは「鍵のICチップ」に絞ります。

📋 この記事の要点

✔ 自動車盗の認知件数は2003年64,223件→2021年5,182件(最少)→2023年5,762件→2025年6,386件(警察庁)。2022年から4年連続で増加している

✔ イモビライザーは、キーのICチップ(送信機)のIDコードと、車両に登録されたIDコードが一致しないとエンジンが始動しない電子式の盗難防止装置(警察白書)

✔ 警察白書の統計(範囲の記載なし)の生産台数に占める装着車の割合は2002年6.6%→2009年65.4%→2015年83.0%(警察白書のデータから算出)。警察庁の2005年の分析では、3車種・型式で標準搭載車の盗難比が非搭載車より2.7〜8.0倍低かった(平成16年中のデータ、ランドクルーザー初期型を除く)

✔ 動画の「今の新車はほぼ100%標準装備」は公的資料で確認できなかった。警察・国交省の資料では確認できなかった。日本防犯設備協会(公益社団法人)の2025年度報告書は、日本自動車工業会の資料として生産台数の装着比率を2004年22.9%→2020年96.2%と記載している(自工会の原資料は未確認)。「ほとんどの車種に装着」とは言えるが、「ほぼ100%」「標準装備」と言い切れる根拠は確認できていない

✔ 2025年の盗難の77.8%は「キーなし」。リレーアタック・CANインベーダー等の手口が警察庁資料に挙げられ、ICチップだけで防げるとは言えない

🎬 動画で見る(ショート)

この記事の元になった、かーぎーくんのショート動画です。動画では触れられなかった詳しい内容や条文・公式情報は、このあと記事で確認できます。

▶ YouTubeで見る(YouTube「くるまのかーぎーくん」)

📝 動画の補足と訂正
① 件数: 2003年の64,223件、2023年の5,762件は警察庁の統計表と一致しました。ただし、動画は「大きく減ってきた」で結んでいましたが、2021年(5,182件)を底に2022年から増加し、2025年は6,386件(前年比+5.0%)です。最新年を含めて読んでください。
② 「今の新車はほぼ100%標準装備」: 公的資料では確認できませんでした(第3章で、確認できた数値を示します)。
③ 「暗号パターンは数百万通り」「登録費用は数千円」: 公的資料・メーカー公式では確認できませんでした。EU指令が定める最低基準は「リモコン等の電子装置は5万通り以上」で、実際の製品の数や費用の公式な金額は確認できていません。
④ 「1998年にEUで義務化」: EU指令95/56/EC(1995年11月8日)で乗用車(M1)にイモビライザーの装備が求められ、1998年10月1日から基準を満たさない新車の登録・販売を加盟国が拒否できるとされています(原文で確認)。ただし「これをきっかけに世界中に広がった」点は確認できませんでした。

件数の推移:6万4,223件(2003年)から6,386件(2025年)

警察庁の「自動車盗難等の発生状況等について」(令和8年2月)の統計表で、自動車盗の認知件数を確認しました。2003年(平成15年)の64,223件がピークで、2021年の5,182件まで減り、その後は増加しています。

自動車盗の認知件数の推移(2003〜2025年)
図:自動車盗の認知件数の推移。警察庁の統計表をもとに作成(自作)

📊 主な年の認知件数(警察庁)

年 認知件数 前年との差 備考
2003年 64,223件 — ピーク(動画の「6万4000件超」)
2021年 5,182件 −28件 統計表で最少
2022年 5,734件 +552件 増加に転じる
2023年 5,762件 +28件 動画の「5000件台」
2024年 6,080件 +318件
2025年 6,386件 +306件(+5.0%) 4年連続の増加

2025年の6,386件は、2003年の約9.9%(警察庁も「ピーク時から1割以下」と説明)です。2021年からの4年間では1,204件、約23%増えました。自動車の保有台数1万台当たりの認知件数で見ても、2003年の8.38件から2017年の1.27件まで減っています(警察白書 平成30年版のデータ)。

2026年に入ってからの動きとして、警察庁は「令和8年上半期における車名別盗難台数の状況」を公表しています。ランドクルーザーは219台(前年同期765台)、プリウスは170台(同289台)でした。この「盗難台数」は盗難等の手配がされた車の台数で、未遂を含まず、認知件数とは別の集計です。2026年上半期の全国の認知件数は、今回確認できませんでした。

鍵のICチップ(イモビライザー)の仕組み

警察白書 平成30年版は、イモビライザーを「エンジンキーに埋め込まれた送信機が出すIDコードと、車両の電子制御装置にあらかじめ登録されたIDコードが一致しなければ、エンジンが始動しない電子式の盗難防止装置」と説明しています。動画で言う「鍵の中のICチップ」は、この送信機のことです。

イモビライザーの仕組みと、警察庁が挙げる主な手口
図:左=イモビライザーの仕組み(警察白書とトヨタ取扱説明書の説明)、右=警察庁の資料に挙げられている主な手口(自作)

メーカーの説明も確認しました。トヨタのヤリス(2026年2月〜)の取扱説明書は、キーに信号発信機が内蔵され、あらかじめ登録されたキー以外ではエンジンを始動できないこと、車から離れるときは車内にキーを残さないこと、そして「すべての車両盗難に対する完全なセキュリティを保証するものではない」ことを書いています。キーが金属製のものに接しているときや、他の車のセキュリティシステム用キーと重なっているときは、正常に作動しない場合があるとも書かれています。

法令上の位置づけ

📜 道路運送車両の保安基準 第11条の2第3項(条文の要約)

専ら乗用の用に供する自動車(乗車定員10人以上などを除く)や、車両総重量2トン以下の貨物自動車などに備えるイモビライザ(原動機その他運行に必要な装置の機能を電子的方法により停止させる装置)は、その作動により機能を確実に停止させ、かつ安全な運行を妨げないものとして、構造・施錠性能等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。

条文は「備えるイモビライザは基準に適合すること」という書き方で、装着そのものを義務付ける文言は、条文からは確認できませんでした。2013年12月に改定された官民合同プロジェクトチームの行動計画には、「装着義務付けの要否及び範囲等について検討を進める」と書かれていました(日本損害保険協会が2015年に国土交通省の検討会へ出した資料)。なお、告示の旧別添9(イモビライザの技術基準)は、国土交通省が公開する旧版のPDFに「2022.10.7削除」と記されています。現行の技術基準の所在までは確認できていません。

普及の時期と効果

📊 イモビライザーと自動車盗難対策の主な流れ(確認できたもの)

時期 出来事 出典
1998年10月 EU指令95/56/ECにより、基準を満たさない新車の登録・販売を加盟国が拒否できるように(乗用車は装備が要件) EUR-Lex
2001年9月 自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム(PT)が設置された 日本損害保険協会資料
2002年1月 PTが「自動車盗難等防止行動計画」を策定 警察庁
2003年7月 国土交通省が保安基準を改定し、イモビライザー等の構造基準を策定 国土交通白書(平成15年度)
2004年4月 PTが盗難多発車種とイモビライザーの効果の検証結果を公表。計画を改訂 警察白書 平成16年版
2005年12月 警察庁が、3車種・型式でイモビライザー標準搭載の効果を分析した結果を公表 警察庁資料
2026年2月 行動計画を改定。電子制御ユニットに不正信号を送る手口への対応が前面に 警察庁

どれくらい普及したか

イモビライザー装着車の割合と盗難認知件数(2002〜2016年)
図:警察白書の統計(範囲の記載なし)の自動車生産台数に占めるイモビライザー装着車の割合(棒)と、自動車盗の認知件数(折れ線)。警察白書のデータから算出(自作)

警察白書 平成30年版のデータ(平成14〜28年)から、装着車の割合を計算しました。2002年6.6%、2005年28.0%、2009年65.4%、2012年76.2%、2015年83.0%、2016年78.1%です。日本損害保険協会の資料では、装着可能な車種は2006年の66.1%から2014年の91.2%(165車種/181車種)に増えています。動画の「今の新車はほぼ100%」に当たる数値は、警察・国土交通省の資料にはありませんでした。日本防犯設備協会(公益社団法人)の2025年度報告書(2026年3月)は、日本自動車工業会の資料として、生産台数の装着比率を2004年22.9%→2020年96.2%と記載しています(自工会の原資料は未確認)。2016年に78.1%へ下がった理由は資料に書かれておらず不明です。「ほとんどの車種に装着」とは言えますが、「ほぼ100%」「標準装備」と言い切れる根拠は確認できていません。

効果は確認されているか

警察庁の2005年12月の資料は、アリスト・ランドクルーザー・セルシオの3車種・型式で、イモビライザーを標準搭載する前後の「販売盗難比」を比べています。結果は、標準搭載車は非搭載車に比べて販売盗難比が2.7〜8.0倍低い(ランドクルーザーの初期型イモビライザーを除く)というものでした。ランドクルーザーの現行型は、初期型より3.8倍低いとされています。

読むときの注意: 「販売盗難比」は、分析期間の盗難台数を累積販売台数で割って1,000を掛けた数で、廃車による減少を含みません。分析は3車種・型式だけで、「キーあり」「キーなし」の区別もしていません。警察白書 平成30年版は、官民合同PTがイモビライザーの装着を促進し、装着車の割合が増加傾向にあること、1万台当たりの認知件数が2003年をピークにほぼ一貫して減少していることを並べて述べています。ただし、盗難車の情報共有や不正輸出の防止など、ほかの取り組みも同時に進められており、件数の減少がイモビライザーだけの効果だとは、公的資料では述べられていません。

それでも「キーなし」が8割近い:警察庁が挙げる手口

警察庁の統計には、盗まれたときのキーの状態の区分があります。「キーあり」はエンジンキーが差し込まれていた、または運転席やその周辺に放置されていた場合、「キーなし」はそれ以外です。スマートキー(キーレス)のことではありません。

盗まれたときのキーの状態(キーあり・キーなし)の推移
図:自動車盗のキーの状態別の認知件数(2003〜2025年)。警察庁の統計表をもとに作成(自作)

「キーあり」は2003年の18,568件から2025年の1,416件に減りました。一方、「キーなし」は45,655件から4,970件に減ったものの、全体に占める割合は71.1%から77.8%(過去最高)になっています。発生場所は「一般住宅」が45.2%(過去最高)、「駐車場」が27.9%です(令和7年)。

📊 警察庁が挙げる主な盗難の手口(令和8年2月の資料から抜粋)

手口 警察庁の説明 警察庁・JAF Mate Onlineが挙げる対策の方向
CANインベーダー等 CANインベーダー等の特殊な機器で、自動車の電子制御ユニットに不正信号を送信するなどして、ドアロックの解除とエンジンの始動を行う 警察庁は盗難防止装置の複合的な活用を呼びかけ。JAF Mate Onlineでは、後付けイモビライザーなど別系統の認証が紹介されている
リレーアタック 玄関先等に保管しているスマートキーの微弱な電波を特殊な機器で中継し、ドアロックの解除とエンジンの始動を行う スマートキーを玄関先に置かず、電波を遮断できるケースに入れる(警察庁)
キープログラマー等 窓の隙間から針金を差し込む、窓ガラスを破壊する、ピッキング工具を使うなどで車内に侵入し、特殊な機器でエンジンキーを複製する 確実な施錠、窓を完全に閉める(警察庁)
そのほか 車体に隠したスペアキーを探す、家に侵入して車のキーを盗む、レッカーで車ごと盗む、鍵を預かる施設でなりすまして受け取る 車内に現金・鞄・スペアキー等を置かない(行動計画)

警察庁の令和8年2月の行動計画は、電子制御ユニットに不正信号を送信する手口等による盗難が多発していることを前提に、警察が自動車メーカーに手口の情報を共有し、盗難防止性能の高い自動車の開発を働きかけること、最新の防犯対策が導入されていない型式の既販車に対する、後付けの盗難防止装置の開発・普及を働きかけることを挙げています。

JAF Mate Online(2026年4月25日)では、元刑事の佐々木成三氏と自動車盗難防止協会の理事が、後付けイモビライザーはCAN(車の制御を司る通信システム)の配線に組み込み、正しい認証がない限りエンジンがかからない仕組みだと説明しています。一方で、本体を分解して取り外せば突破される可能性があるとも述べています。対策の組み合わせ方や保険の扱いは、当サイトの別記事で整理しています。

鍵をなくしたとき・スペアキー

動画の最後の話題です。トヨタのヤリスの取扱説明書は、キーをなくしたときについて、キーナンバープレートに打刻されたキーナンバーと残りのキー(スマートエントリー&スタートシステム非装着車)、または残りのメカニカルキー(装着車)から、トヨタ販売店で純正の新しいキーを作れると案内しています。キーナンバープレートは、車の中以外の安全な場所(財布の中など)に保管するようにとも書かれています。

電子キーを紛失した場合は、「紛失した状態で放置すると、盗難の危険性が極めて高くなります」として、車両に付属している残りの電子キーをすべて持って、ただちに販売店に相談するよう求めています。

動画の「普通の合鍵屋さんでは作れないことがある」「基本はディーラー」「登録費用は数千円」について、メーカー公式の案内として確認できたのは、販売店での作成の手順までです。一般の合鍵店の対応可否や、費用の公式な金額は確認できませんでした。費用や日数は、依頼先で見積もりを取ってください。詳しい手順は、当サイトのスペアキー作成の記事にまとめています。

よくある質問

Q. 自動車盗難は今も減っていますか?

A. 警察庁の統計では、2021年の5,182件を底に、2025年まで4年連続で増加し、2025年は6,386件です。2003年のピークの約1割ですが、減り続けているわけではありません。

Q. イモビライザーの装着は義務ですか?

A. 日本の保安基準第11条の2第3項は、備えるイモビライザーが基準に適合することを定めています。装着そのものを義務付ける文言は、条文からは確認できませんでした。EUでは、EU指令95/56/ECで乗用車にイモビライザーの装備が求められています。

Q. イモビライザー付きの車は盗まれませんか?

A. トヨタの取扱説明書は「完全なセキュリティを保証するものではない」としています。警察庁の資料には、電子制御ユニットへの不正信号やスマートキーの電波の中継などで、ドアロックの解除とエンジンの始動に至る手口が挙げられています。

Q. 自分の車にイモビライザーが付いているか、どう確認しますか?

A. 取扱説明書の「盗難防止装置」の項で確認できます。トヨタのヤリスの取扱説明書では、システムが作動しているときはインジケーターが点滅すると書かれています。他のメーカー・車種の表示は、取扱説明書か販売店で確認してください。

Q. 動画の「2023年は5000件台」は正しいですか?

A. 2023年の5,762件は警察庁の統計表と一致します。ただし、2022年から増加が続いており、2025年は6,386件です。最新の数字とあわせてご覧ください。

まとめ

自動車盗の認知件数は、2003年の64,223件から2021年の5,182件まで減り、2022年から4年連続で増えて2025年は6,386件です(警察庁)。鍵のICチップ(イモビライザー)は、登録されたキー以外ではエンジンを始動できない電子式の装置で、警察白書の統計(範囲の記載なし)の生産台数に占める装着車の割合は2002年の6.6%から2015年の83.0%に増えました。警察庁の2005年の分析では、3車種・型式で標準搭載車の盗難比が2.7〜8.0倍低くなっています(平成16年中のデータ、ランドクルーザー初期型を除く)。

一方、2025年の盗難の77.8%は「キーなし」で、電子制御ユニットへの不正信号やスマートキーの電波の中継といった手口が警察庁の資料に挙げられています。動画の数字は正しいものの、「減ってきた」だけでなく「2022年から増えている」ことと、ICチップだけで防げるとは言えないことが、補足として大切な点です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。統計・法令・基準は更新・改正されることがあるため、最新の内容は警察庁・国土交通省・各メーカーの公式情報でご確認ください(確認日: 2026年10月17日)。個別の防犯対策や保険の判断は、警察・販売店・保険会社にご相談ください。

参考(一次情報・公的機関・メーカー・JAF): 警察庁「自動車盗難等の発生状況等について」令和8年2月/警察庁 自動車盗難等防止行動計画(令和8年2月17日改定)/警察庁 令和8年上半期における車名別盗難台数の状況/警察白書 平成30年版 特集(図表特-17・特-18)/警察白書 平成16年版(自動車盗対策)/警察庁生活安全企画課「自動車盗難等防止対策の推進状況について」(平成17年12月1日)/国土交通白書 平成15年度(自動車における犯罪防止対策)/日本損害保険協会 平成27年度第2回車両安全対策検討会 資料(2015年11月19日)/e-Gov法令検索 道路運送車両の保安基準(第11条の2)/国土交通省 保安基準の細目を定める告示 旧別添9(2022.10.7削除と記載)/EUR-Lex 委員会指令95/56/EC/トヨタ ヤリス取扱説明書 エンジンイモビライザーシステム/同 キーをなくしたときは/JAF Mate Online 元刑事も導入した愛車を守る「最後の砦」

図はすべて自作のグラフ・イラストです(AI生成なし)。データの出典は各図の下に記載しています。

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