秋が深まり、冬が近づくと気になるのが、電気自動車(EV)の航続距離が寒さで短くなるという話です。ガソリン車では、エンジンの熱を暖房に使えますが、EVでは走行用のバッテリーの電力で車内を暖める必要があります。一方で、「冬は半分になる」といった昔の解説記事の数字は、初期のEVなどの古いデータで、今の車にそのまま当てはまるとは限りません。この記事では、日本自動車工業会(JAMA)、JAF、日産の公式サービスの案内、東京電力エナジーパートナーの検証記事などをもとに、冬に航続距離が短くなる仕組み、実際の変わり方の目安、今からできる対策を整理します。
📋 この記事の要点
✔ EVは、エンジンの廃熱を使えないため、暖房には走行用バッテリーの電力が必要になる(JAMA)。低温では、急速充電で入る電気の量も、暖かい場所より少なくなる(JAF Mate)
✔ 冬の航続距離の減り方は、車種・気温・暖房の使い方・走り方で大きく変わる。JAMAは、日産サクラでは冬場の減少が2〜3割程度にとどまると紹介。一方、東京電力エナジーパートナーの検証では、関東の2月の走行で、電費が夏とほぼ同じだった例もある
✔ 充電中に事前に車内を暖める「プレ空調」なら、充電器の電力で空調が動くため、車載バッテリーの充電量は減らない(日産のNissanConnectの案内)
✔ シートヒーターやステアリングヒーターは、消費電力が少ない(JAMA・JAF Mate)。大雪の立ち往生では、オートエアコンの連続使用は電力を大きく消費する(JAF)
✔ タイヤの空気圧は、季節にかかわらず、車両指定の空気圧に合わせる。JAFは、最低でも月1回の点検を勧めている
動画でも解説しています。(YouTube「くるまのかーぎーくん」)
📑 目次
1. なぜ、EVは冬に航続距離が短くなりやすいのか
JAMAのブログ記事では、EVは、エンジンの廃熱を利用できないため、走行用のバッテリーから電力を取り出して車室内を暖める必要があると説明されています。初代の日産リーフ(2010年発売)では、冬場に暖房を使って走行すると、条件によっては航続距離に大きく影響することが分かった、とも紹介されています。あわせて、バッテリーそのものも、低温の影響を受けます。
📊 冬に航続距離が短くなりやすい主な要因
| 要因 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 暖房による電力消費 | ガソリン車と違い、エンジンの廃熱を暖房に使えないため、走行用バッテリーの電力で車内を暖める。暖房を使った走行は、条件によって航続距離に大きく影響する | 日本自動車工業会(JAMA)のブログ |
| 低温によるバッテリーの状態 | JAF Mate Onlineの雪国での試乗記事では、急速充電30分で充電できる量は、暖かい場所より寒い場所のほうが、明らかに少なかったと述べられている。バッテリーを事前に暖めると、充電の効率が上がるが、暖めるために走行用の電力を使う | JAF Mate Online |
| 走り方・走行環境 | 空気抵抗の影響を受けやすいEVでは、速度を控えめにし、急な加減速を避けると、効率が上がるとJAMAが紹介 | JAMA(運転方法) |
📌 暖房方式の違い
JAMAのブログでは、EVの暖房では、ヒートポンプを、省電力の暖房技術として紹介しています。ヒートポンプの有無や種類、車の制御は、車種ごとに異なります。お使いの車の暖房方式や、寒冷地での使い方は、取扱説明書やメーカーの案内でご確認ください。
⚠️ 「冬は必ず半分になる」ではありません
昔の解説記事には、冬の航続距離低下を、大きな割合で示したものがあります。たとえば、2015年に公開されたブログ記事は、当時の車種での例を示しています。今の車種には、暖房の効率化などの改良が進んでいるものもあり、古い数字をそのまま当てはめると、実態とずれる場合があります。
2. 実際にどれくらい変わるのか:公開されている例
航続距離の変化は、車種、外気温、暖房の設定、走る速度、バッテリーの状態などで大きく変わり、「冬は◯割減る」という一つの数字で言い切ることはできません。以下は、公開情報にある例です。条件が異なるため、そのまま比較したり、ご自身の車に当てはめたりするものではありません。
📊 冬の航続距離・電費に関する公開情報の例
| 例 | 条件・内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 日産サクラ(2022年発売) | 冬場の航続距離の減少が、2〜3割程度にとどまると紹介されている | JAMAのブログ |
| 日産アリア B9 | 夏と冬の長距離ドライブで比較。電費は、夏が5.4km/kWh、冬が5.3km/kWhで、ほぼ同じだった。冬の走行は、2月の関東地方の平均的な気温(外気5〜12℃)で、車内は25℃設定。極寒地の条件ではない | 東京電力エナジーパートナー「EV DAYS」 |
| EVでの雪国の試乗(JAF Mate Online) | 空調を「Hi」にすると、23℃設定に比べて、電費が0.2km/kWh下がった。一方、ステアリングヒーターとシートヒーターは、消費電力が小さく、航続距離の表示に目立った減少はなかった | JAF Mate Online(2025年) |
| 2015年の解説記事 | 当時の車種(初期のEVなど)で、冬の航続距離が大きく低下した例を紹介。今の車種の目安としては、参考にとどめる | EVsmartブログ(2015年6月29日) |
💡 カタログ値と実際の航続距離
カタログの航続距離は、決められた試験条件での値です。実際の走行では、気温、暖房やエアコンの使用、速度、積載、渋滞、道路の勾配などで変わります。冬の遠出では、カタログ値をそのまま前提にせず、余裕を持った計画を立てましょう。
3. 今からできる冬の対策
📊 冬の対策の整理
| 対策 | 期待できること | 注意点・補足 | 出典 |
|---|---|---|---|
| プレ空調(乗る前に車内を暖める) | 充電中に事前に車内を暖めれば、走行用のバッテリーの電力を使わずに、車内を快適にできる | 日産のNissanConnectの案内では、外気温が高すぎたり低すぎたりしたときや、充電プラグが100V仕様の場合は、快適な温度にならないことがある。対応の有無は、車種による | JAMA、日産(NissanConnect) |
| シートヒーター・ステアリングヒーター | 体に直接触れる部分を暖めるため、消費電力を抑えながら、快適性を確保しやすい | 車内全体の温度は、暖房設定や使用状況による | JAMA、JAF Mate Online |
| エアコンの設定温度を控えめにする | プレ空調で車内を暖めてあれば、走行中の設定温度を低めにしても、快適に過ごしやすい | 設定温度と電費の関係は、車種や外気温による | JAMA、JAF Mate Online |
| なめらかな運転 | 空気抵抗の影響を受けやすいEVでは、速度を控えめにし、急加減速を避けることで、効率が上がる。アクセルペダルを緩めたときの回生ブレーキも活用 | 高速道路での高い速度は、電費に影響しやすい | JAMA |
| バッテリーの温度への配慮 | 急速充電の前にバッテリーを暖めると、充電の効率が上がる | 暖めるために、走行用の電力を使う。機能の有無・使い方は、車種ごとの取扱説明書で確認 | JAF Mate Online |
| 充電計画に余裕を持つ | 寒いときは充電できる量が少なくなる場合があるため、充電スポットの確認と、余裕を持った計画が有効 | 目的地までの充電スポットを、事前に確認 | JAF Mate Online(充電の記述)、一般的な考え方 |
※表は横にスクロールできます
🧭 冬の準備の流れ
お使いの車の暖房方式と、プレ空調の機能を確認する
取扱説明書やメーカーのサイトで、ヒートポンプの有無、プレ空調(タイマー空調・リモート空調)の使い方を確認します。
自宅などで充電するときは、出発時刻に合わせて、プレ空調を設定する
充電プラグをつないだ状態で行います。100V充電などでは、車内が十分に暖まらない場合があります。
走行中は、シートヒーターなどをうまく使い、設定温度を控えめにする
無理をせず、快適に過ごせる範囲で調整します。
遠出のときは、充電スポットを事前に確認し、余裕を持って充電する
寒い日は、充電で入る量が少なくなる場合があります。
タイヤの空気圧を、指定値に合わせる
月1回を目安に点検します(次の章を参照)。
4. 大雪の立ち往生と雪道:EVで気をつけたいこと
JAFは、2021年2月に山形県で、大雪で車が立ち往生したときの、EVの防寒対策を検証しました。外気温は、実験開始時で-8.1℃。EV4台で、暖房の方法を変えて比較しています。
📊 JAFの検証:大雪の立ち往生を想定した、EVの暖房方法の比較(2021年2月、山形県)
| テスト車 | 暖房の方法(JAFのユーザーテスト) | 結果(JAFのページの記載) |
|---|---|---|
| 1 | オートエアコンを25℃で、常時稼働 | オートエアコンは、大幅に電力を消費する(JAFの結論) |
| 2 | 電気毛布(電源ソケットを使用)のみ | バッテリーは、50%以上残った |
| 3 | シートヒーターHi+電気フットヒーター(電源ソケットを使用) | バッテリーは、50%以上残った |
| 4 | 毛布のみ。寒いときに、エアコンをON/OFF | バッテリーは、25%まで低下した |
JAFは、この検証をふまえ、暖房の使い方を考慮する必要があること、毛布や、電源ソケットを使う暖房器具を、車内に備えておくとよいことを述べています。バッテリー残量は、航続距離に直結します。雪道や寒い地域に行くときは、余裕を持った残量で出発しましょう。
⚠️ 雪道では、センサーやタイヤの状態にも注意
JAF Mate Onlineの記事では、EVはエンジン車と比べて廃熱が少ないため、雪が付着したままになりやすく、運転支援のセンサーが不安定になることがあったと述べられています。雪道では、車の取扱説明書に従い、センサー部分の雪を取り除いてから走り出しましょう。冬用タイヤの装着や、走行の判断は、道路状況や気象情報に従ってください。
📝 冬の遠出のチェックリスト(EV)
☑️ 出発前に、バッテリー残量と、充電スポットの位置を確認した
☑️ 出発時刻に合わせて、プレ空調を設定した(対応車種)
☑️ 毛布や、防寒具を車に積んだ
☑️ 暖房の使い方(シートヒーターなど)を、事前に確認した
☑️ タイヤの空気圧を、指定値に合わせた
☑️ 道路の通行止め・雪の情報を、出発前に確認した
☑️ 無理のない距離で、充電の余裕を持った計画にした
5. 冬に見直したい、タイヤの空気圧
タイヤの空気圧は、気温が下がると低くなりやすいことが、一般的に知られています。JAFのユーザーテストでは、空気圧は、最低でも月1回、エアゲージやガソリンスタンドの器具で点検することが勧められています。ブリヂストンのよくある質問では、季節によって空気圧を変える必要はなく、タイヤが冷えた状態で、車両指定の空気圧に調整することが推奨されています。
📊 タイヤの空気圧の点検
| ポイント | 内容(JAF・ブリヂストンの案内) |
|---|---|
| 点検の頻度 | 最低でも月に1回。エアゲージや、ガソリンスタンドの器具を使う(JAF) |
| 調整する値 | 季節にかかわらず、車両指定の空気圧。夏用に減らす、冬用に増やすといった調整は不要(ブリヂストン) |
| 測るタイミング | タイヤが冷えた状態(ブリヂストン) |
| 自然に抜ける分 | 自然に抜けることを考慮して、指定値に対し、0〜+20kPaの範囲に収める(ブリヂストンのFAQ) |
| 見た目での判断 | 偏平率の低いタイヤでは、空気圧が下がっていても、見た目で気づきにくいとJAFが指摘。見た目に頼らず、ゲージで測る |
📌 補足
電気自動車専用の指定空気圧や、タイヤ交換の際の注意点(タイヤの銘柄・サイズ)は、車種ごとに異なります。車の取扱説明書や、運転席側のドアまわりの表示でご確認ください。
- 日本自動車工業会(JAMA)ブログ「EVを正しく理解し、冬のドライブを快適に!」
- JAFユーザーテスト「大雪による車の立ち往生」
- JAF Mate Online「電気自動車(EV)は冬に弱い?」
- 日産 NissanConnect「リモートエアコン/タイマー空調」
6. よくある質問
まとめ
EVの航続距離が冬に短くなりやすいのは、エンジンの廃熱を暖房に使えず、バッテリーの電力で車内を暖める必要があることに加え、低温でバッテリーの充電が入りにくくなることなどが理由です。ただし、減り方は車種や条件で大きく異なり、古い解説記事の大きな数字がそのまま今の車に当てはまるとは限りません。プレ空調(充電中に車内を暖める)、シートヒーターの活用、なめらかな運転、余裕を持った充電計画、タイヤの空気圧の点検が、冬に備える基本です。お使いの車の暖房方式や、プレ空調の機能は、取扱説明書やメーカーの案内でご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度・料金・基準・製品仕様は変更されることがあるため、最新の内容は、公的機関・メーカー・各公式サイトでご確認ください(2026年10月時点)。
アイキャッチ画像: EV charging stations in snow by Sebleouf, CC BY-SA 4.0


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