EVトラックは物流の救世主になるか?普及の現状

脱炭素社会の実現に向けて、乗用車だけでなくトラックの電動化にも注目が集まっています。「EVトラックが物流の救世主になる」という声がある一方、現実の普及率はまだ低い水準にとどまっています。EVトラックの現状と課題を、最新の数字とともに整理します。

📋 この記事でわかること

  • 普及率はまだ3%未満
  • 政府が掲げる普及目標
  • なぜ普及が進みにくいのか:航続距離の壁
  • 充電インフラの不足という課題
  • 初期コストの高さ

普及率はまだ3%未満

日本国内のEVトラックの普及率は、欧米の先進国と比較するとまだ低い水準です。2023年3月時点で、8t以下の貨物トラック約43.5万台のうち、EVトラックはわずか2.9%(12,651台)にとどまっています。「物流の救世主」として期待される一方で、実際の普及はまだ黎明期にあるというのが現状です。

政府が掲げる普及目標

政府は2030年度までに、8t以下の商用トラック全体のうち、電動車(BEV・PHEV・FCVなどを含む)の割合を5%に引き上げる目標を掲げています。現状の2.9%(BEVのみの数字)から考えると、この目標達成には官民双方でのさらなる後押しが必要になる水準です。あわせて、8tを超える大型トラックについても電動化の技術開発が進められていますが、大型車は航続距離や積載量の要求水準が高く、小型車以上に電動化のハードルが高いとされています。

なぜ普及が進みにくいのか:航続距離の壁

EVトラック普及の最大の課題として挙げられるのが、航続距離の制約です。1回の充電で走行できる距離が限られているため、長距離輸送での運用には不向きとされ、現状では都市部での配送や、決まったルートを走る近距離輸送での導入が中心になっています。特に大型トラックの場合、積載する荷物の重量に加えて大容量バッテリーの重量も加わるため、航続距離と積載量のバランスを取ることが技術的に難しいという事情もあります。

充電インフラの不足という課題

航続距離の制約とあわせて指摘されるのが、充電インフラの整備状況です。乗用車向けの充電スタンドと比較して、トラック用の大容量急速充電設備はまだ限られており、長距離輸送での運用を想定する場合、途中で確実に充電できる場所を確保できるかどうかが導入の可否を左右します。物流拠点や高速道路のサービスエリアなど、トラックが立ち寄りやすい場所への充電インフラ整備が、今後の普及のカギを握っています。

初期コストの高さ

EVトラックは、従来のディーゼルトラックと比較して車両価格が高額になりやすいという課題もあります。バッテリーのコストが車両価格の大きな部分を占めており、購入時の初期投資は運送会社にとって大きな負担です。国や自治体による導入補助金制度も用意されていますが、燃料費の削減効果や税制優遇などを含めたトータルコストで見て、投資に見合うかどうかを慎重に見極める必要があります。

バッテリーと積載量のトレードオフという根本課題

航続距離を伸ばそうとすると、その分バッテリーの搭載個数を増やす必要がありますが、バッテリー自体の重量が加わることで、トラックの最大積載量が目減りしてしまうという根本的なジレンマがあります。荷物をたくさん積めることがトラックの存在価値である以上、「航続距離を伸ばすほど本業である輸送力が落ちる」というこの矛盾は、ディーゼルトラックにはなかったEVトラック特有の技術的な壁です。多くの運送会社が導入に踏み切れずにいる背景には、こうした積載量と航続距離のバランスをどう取るかという、実務上の悩みが横たわっています。

導入を後押しするCEV補助金

EVトラックの初期コストの高さを緩和する仕組みとして、環境省は商用車版の「CEV導入促進補助金」を実施しています。EVトラックを導入する事業者に対し、ディーゼル車など従来車との価格差の3分の2を基準とした補助が行われる仕組みで、購入時の負担を大きく軽減できる制度です。ただし、補助金には申請期間や予算枠が設けられており、毎年の受付スケジュールを確認したうえで計画的に導入を検討する必要があります。

中国・欧州との普及率の差はなぜ生まれるのか

日本のEVトラック普及率が低い水準にとどまっている一方、中国ではEVトラックの普及が急速に進んでいます。背景には、新車購入時の税金免除や、古い車両からの買い替えに対する補助金、都市部を優先的に走行できる権利の付与、充電料金の割引といった、複合的な優遇策があります。単なる車両価格の補助にとどまらず、「EV車両を持つことで得られる実利」を多角的に用意することで、企業側の導入インセンティブを高めている点が、中国の政策の特徴だといえます。日本でも同様の複合的な優遇策を整備できるかどうかが、今後の普及ペースを左右する要素のひとつになりそうです。

メーカー各社の先行的な取り組み

課題が残る中でも、トラックメーカー各社はEVトラックの実用化に向けた取り組みを進めています。いすゞ自動車は小型EVトラック「ELF EV」を、三菱ふそうトラック・バスは「eCanter」を、それぞれ実運用の形で数百台規模の先行導入を進め、実際の走行データを蓄積しています。こうした先行導入を通じて、実際の配送ルートでの航続距離や充電サイクル、メンテナンスコストなどのデータを積み重ね、量産化・普及に向けた知見を蓄積している段階です。2026年4月の国内トラック販売動向を見ると、日野自動車や三菱ふそうトラック・バスといったメーカーが販売台数で巻き返しを見せており、電動車を含めた商用車全体の開発競争は今後も続くと見られます。

近距離配送でのメリット

EVトラックには、航続距離の制約がある一方で、近距離・都市部配送における明確なメリットもあります。走行中の排気ガスがゼロであるため、住宅街や商業施設周辺での環境負荷を抑えられるほか、エンジン音が静かなため早朝・深夜の配送でも近隣への騒音を抑えやすいという利点があります。加えて、電気料金は軽油価格と比較して変動が比較的緩やかな傾向があり、燃料費の見通しを立てやすいという運用面でのメリットも指摘されています。宅配便のラストワンマイル配送や、決まったルートを繰り返し走る定期便のような用途では、こうしたメリットを活かしやすいといえます。

欧州の強気な規制目標が普及を後押しする可能性

EUは2024年5月、大型トラック・バスを対象とした厳格なCO2排出規制を正式に採択しました。この規制では、大型車のCO2排出量を2030年までに45%、2035年までに65%、2040年までに90%削減することが義務付けられています。都市部を走るバスについては、さらに踏み込んだ目標が設定されており、2030年までに新規登録される都市バスの90%を、2035年までには実質すべてをゼロエミッション車にすることが求められています。日本のように購入補助金を中心とした普及促進策とは異なり、EUはメーカー側に排出量削減の数値目標を直接課すという、より強制力の強いアプローチを取っている点が特徴です。こうした規制の違いが、今後の各地域でのEVトラック普及スピードの差につながっていく可能性があります。

水素燃料電池トラック(FCV)という選択肢

電動化のもうひとつの選択肢として、水素を燃料とする燃料電池トラック(FCV)の開発も進められています。バッテリー式のEVトラックと比較して、燃料補給(水素充填)にかかる時間が短く、航続距離も確保しやすいという特性から、長距離輸送への適性が高いとされています。ただし、水素ステーションの整備状況はEV用の充電インフラ以上に限られており、実用化・普及にはさらに時間がかかると見られています。

宅配大手はどこまでEV化を進めているのか

統計上の普及率は低いものの、宅配便大手各社は独自にEV車両の導入を積極的に進めています。ヤマト運輸は2026年度までにEV8,500台の導入を目指し、2030年には2万3,500台まで拡大する計画を掲げています。佐川急便も環境対応車の保有台数がすでに2万台を超えており、2026年春からはスズキ・ダイハツ・トヨタの3社が共同開発した新型の商用軽EVを順次導入し、2030年までに約7,000台の軽自動車をこの新型EVに置き換える計画を進めています。統計データ上の「普及率3%未満」という数字は、あくまで国内の商用トラック全体を分母にした数字であり、大手宅配事業者に限って見れば、ラストワンマイル配送を担う軽自動車クラスを中心に、EV化はすでに着実に進行しているというのが実態に近い姿だといえます。今後は、こうした大手事業者の先行導入で蓄積されたノウハウやコストダウンの効果が、中小の運送会社にも波及していくかどうかが、業界全体の普及ペースを左右するポイントになりそうです。

中古EVトラック市場が抱えるバッテリー劣化という壁

普及がこれから本格化するEVトラックにとって、将来の中古車市場でどれだけの価値が付くかも、導入を検討する運送会社にとって気になるポイントです。乗用車のEVで既に指摘されている課題として、リチウムイオンバッテリーの経年劣化があります。走行距離2万km程度までの初期劣化で2〜4%、その後は年1〜2%程度のペースで緩やかに劣化していくのが一般的とされますが、急速充電を頻繁に使う運用や高温環境での保管が続くと、劣化はさらに早まる傾向があります。バッテリーの劣化度合い(SOH=State of Health、電池の健全度)が9割を超えていれば高値が期待できる一方、8割を下回ると査定額が大きく下がるとされ、外観だけでは内部の劣化状態が分からないという情報の非対称性が、中古EV市場全体の価格形成を難しくしている要因になっています。日々長距離を走り、荷物の重量という負荷も加わる商用のEVトラックは、乗用車以上にバッテリーへの負荷が大きいと考えられ、下取り・買い替えの際にバッテリー状態を客観的に証明できる診断書や保証書を整備しておくことが、将来的なリセールバリューを左右する重要な要素になりそうです。

CEV補助金の具体的な仕組み

本文で触れたCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)は、車両区分や重量によって補助額の上限が細かく設定されている点も押さえておきたいポイントです。小型のEVトラックであれば車両価格差の3分の2程度、大型車ではより高額な補助上限が設定される仕組みで、あわせて充電設備の設置費用についても別枠の補助制度が用意されています。ただし、補助金は年度ごとに予算総額が決められており、申請が集中すると予算上限に達して受付が早期に終了することもあるため、導入を検討する事業者は、最新の公募スケジュールを環境省・経済産業省の関連サイトでこまめに確認しておくことが実務上重要になります。

まとめ

EVトラックは、脱炭素社会の実現に向けた重要な選択肢のひとつですが、現時点での普及率は3%に満たず、「物流の救世主」と呼ぶにはまだ課題が多く残されています。航続距離、充電インフラ、初期コストという3つの壁を乗り越えながら、まずは近距離・都市部配送を中心に着実に導入を広げていくことが、当面の現実的な普及シナリオといえるでしょう。長距離輸送における本格的な電動化には、バッテリー技術のさらなる進化や、水素燃料電池車の実用化とあわせた、中長期的な視点での取り組みが必要になります。

出典: いすゞ自動車公式サイト、各種EVトラック解説記事、国内トラック販売統計、ヤマト運輸・佐川急便のEV導入計画に関する報道資料を参考に構成

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