eモータースポーツとは?ゲームの世界がリアルなレースとつながる時代

「eモータースポーツ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ゲームの世界での腕前が、現実のレースの世界とつながる——かつては想像でしかなかったことが、いま現実に起きています。ゲームと本物のモータースポーツがどのように結びついているのか、詳しく解説します。

📋 この記事でわかること

  • eモータースポーツとは何か
  • FIA公認の大会という新しい枠組み
  • ゲーム内の「デジタルライセンス」という仕組み
  • ゲームから本物のレーサーになった実例
  • なぜゲームと実車の垣根が低くなったのか
  • 映画のモデルにもなったヤン・マーデンボロー選手の実績

eモータースポーツとは何か

eモータースポーツとは、レーシングゲームやドライビングシミュレーターを使った競技全般を指す言葉です。一般的な「eスポーツ」がFPSや対戦格闘ゲームなど幅広いジャンルを含むのに対し、eモータースポーツは自動車のレースを題材にしたゲームに特化した競技領域です。単なる娯楽としてのゲームプレイにとどまらず、公式な大会が開催され、賞金やプロ契約が発生する、れっきとした競技として発展してきました。

FIA公認の大会という新しい枠組み

eモータースポーツを語るうえで欠かせないのが、国際自動車連盟(FIA)が公認する大会の存在です。FIAはプレイステーション向けレーシングゲーム「グランツーリスモ」の開発元であるポリフォニー・デジタルと共同で、「FIA公認グランツーリスモ・チャンピオンシップ」を開催しています。この大会は、ゲーム内の腕前を測るだけの催しではなく、FIAという実際のモータースポーツを統括する国際団体が正式にお墨付きを与えた、公式競技として位置づけられている点が画期的です。

ゲーム内の「デジタルライセンス」という仕組み

ポリフォニー・デジタルはFIAと共同で、ゲーム内でのオンラインレースの成績に応じて取得できる「デジタルライセンス」の制度を確立しました。プレイヤーはこのライセンスを取得することで、FIA公式ルールに則ったeモータースポーツ競技に正式にエントリーできる仕組みになっています。従来のモータースポーツでは、レーシングカートなどの実車を使った経験を積み重ねてライセンスを取得するのが一般的でしたが、eモータースポーツの世界では、自宅のゲーム機とハンドルコントローラーがあれば、そのキャリアの入り口に立つことができるという点が、大きな特徴です。

ゲームから本物のレーサーになった実例

ゲームの腕前が本物のキャリアにつながった代表的な事例が、日産・プレイステーション・ポリフォニー・デジタルが2008年に開始した「GTアカデミー」というドライバー発掘・育成プログラムです。ゲーム大会の優勝者に実際のレーシングドライバーとしてのトレーニングとレース出場機会を提供するこのプログラムからは、実際にプロのレーシングドライバーとして活躍する人材が輩出されました。この実話をもとにした映画も制作され、世界中で話題を呼びました。また、「FIA グランツーリスモチャンピオンシップ」の初代ネイションズカップチャンピオンであるイゴール・フラガ選手は、その後トヨタのチームでマニュファクチャラーシリーズのチャンピオンにも輝き、レッドブルのジュニアチームに参加するなど、eモータースポーツからキャリアを本格化させた選手として知られています。

なぜゲームと実車の垣根が低くなったのか

この背景には、レーシングゲームの物理演算技術が飛躍的に向上したことがあります。近年のトップクラスのレーシングゲームは、タイヤと路面の接地感、空気抵抗、サスペンションの挙動といった要素を高精度にシミュレートしており、ゲーム内で培った車両感覚が、実車の運転にも一定程度応用できるレベルに達しています。もちろんゲームと実車には身体的な負荷(Gフォース、振動、恐怖心など)という決定的な違いがありますが、コース取りやブレーキングポイントの把握といった認知的なスキルの部分では、ゲームでの練習が実車での走行に活きるという指摘は、プロのレーシングドライバーからも聞かれます。

他のタイトルにも広がるeモータースポーツ

eモータースポーツの広がりは、グランツーリスモだけにとどまりません。F1公式ゲームを使った「F1 eスポーツシリーズ」では、実際のF1チームがeスポーツ部門を持ち、プロのシムレーサーと契約するケースも一般的になっています。また、より本格的なPC向けドライビングシミュレーターを使った大会も世界中で開催されており、ゲームというジャンルの中に、本格的な競技としての地位を確立したカテゴリーが着実に育っています。

日本国内の大会・チームの広がり

eモータースポーツの盛り上がりは、日本国内でも着実に広がっています。自動車ディーラーグループ「ダイワグループ」が2020年10月から開催しているオンライン大会「e-DGモータースポーツ」は「グランツーリスモ7」を舞台にしており、グランツーリスモシリーズを中心に活動する国内のプロチーム所属選手が参戦するなど、企業主導のeモータースポーツイベントも定着しつつあります。またiRacingを舞台にした「全日本e-F4選手権」は、参加者数が60人を超える人気大会として知られています。日本自動車連盟(JAF)も「eモータースポーツ3か年計画」を掲げ、頂点となる大会と、初心者が参加しやすい裾野の両方を育てていく構想を打ち出しており、国内のeモータースポーツ環境は年々整備が進んでいます。

誰でも参加できる裾野の広さ

eモータースポーツのもうひとつの魅力は、参加のハードルの低さです。実車でのモータースポーツは、車両の購入・維持費、サーキット利用料、専用の防具といった、決して小さくない金銭的な負担が必要になります。一方、eモータースポーツであれば、ゲーム機とゲームソフト、そしてハンドルコントローラーがあれば誰でも始められ、才能さえあれば世界大会への道が開かれています。こうした裾野の広さが、モータースポーツ人口の拡大や、新しい才能の発掘につながっているという側面も見逃せません。

なぜ自動車メーカーがeモータースポーツに注目するのか

グランツーリスモを軸にしたFIA公認大会のように、自動車メーカーやモータースポーツの統括団体がeモータースポーツに力を入れる背景には、実車のモータースポーツにはないいくつかの利点があります。ひとつは、実車のレース活動に比べて大幅にコストを抑えられる点です。車両の製造・輸送・整備、サーキットの貸切費用、燃料代といった実車ならではの莫大な費用をかけずに、世界中の腕自慢のドライバーを集めた競技を開催できます。もうひとつは、配信プラットフォームを通じて世界中の視聴者にリーチできる点で、自宅や店舗の一角からでも参加・観戦できる手軽さが、モータースポーツにこれまで縁のなかった新しい層の獲得につながっています。さらに、大勢のプレイヤーが日々ゲーム内を走行することで蓄積される走行データやセットアップの傾向は、実車の開発サイドにとっても興味深い参考情報になりうるという指摘もあります。日産が2008年から展開した「GTアカデミー」のように、ゲームの腕前を実際のドライバー発掘のスクリーニングとして活用する手法は、こうした利点を体現した先駆的な事例だったといえるでしょう。

映画のモデルにもなったヤン・マーデンボロー選手の実績

「GTアカデミー」から本物のレーシングドライバーへと転身した選手の中でも、とりわけ知られているのがイギリス出身のヤン・マーデンボロー選手です。2011年にGTアカデミーで優勝したマーデンボロー選手は、その後着実にキャリアを積み重ね、2013年には世界三大レースのひとつに数えられる「ル・マン24時間レース」に初参戦し、LMP2クラスで3位入賞という結果を残しました。2016年からは日本のSUPER GTにGT300クラスで参戦を開始し、デビューイヤーの第2戦でいきなり初優勝を飾ると、2017年には最上位カテゴリーであるGT500クラスへとステップアップを果たしています。ゲームの大会で優勝した若者が、わずか数年で世界最高峰のレースのひとつであるル・マンで表彰台に立つまでに至った、この現実離れしたキャリアの軌跡こそが、2023年に公開された映画「グランツーリスモ」のモデルとなった実話です。彼の存在は、eモータースポーツが単なる余暇の延長ではなく、本物のモータースポーツ界へとつながる正式な入り口になりうることを、何よりも雄弁に証明しているといえるでしょう。

まとめ

eモータースポーツは、単なる「ゲームの延長」ではなく、FIAという公式な国際団体のお墨付きを得た、れっきとした競技として発展してきました。ゲーム内の腕前が実際のレーシングキャリアの入り口になるという仕組みは、モータースポーツへの参加のハードルを大きく下げ、新しい才能の発掘の場としても機能しています。ゲームの世界とリアルなレースの世界がますます近づいていく中で、これからも新しいスター選手がeモータースポーツから生まれてくるかもしれません。

出典: FIA・グランツーリスモ・ドットコム公式情報、各種ゲームメディア・自動車メディアの報道を参考に構成

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